ウィトゲンシュタイン『哲学探究』(藤本隆志 訳)

 わたくしは、これらの覚え書きを、疑いの感情とともに公開する。この作品には、その貧弱さとこの時代の暗鬱さのうちにあって、いくつかの頭脳に光を投げかけることが運命づけられているということ、このことはありえないことではない。しかし、もちろん、ありそうなことではない。
 わたくしは、自分の手稿によって他の人が〔みずから〕考える労を省くようになるのを望まない。できることなら、誰かが自分自身で考えるための励ましになりたいと思っている。
 わたくしは、よい書物を著わしたいと思った。だが、そのような結果にはならなかった。そして、わたくしがこれを改良できる時間は、すでに過ぎ去っている。