ガバン・マコーマック『空虚な楽園』(松居弘道・松村博 訳)

 さらに考えを進めると、いったいアジアなるものが存在するのかという問題に突き当たる。たしかにアジアという地理上のことばはある。アジアとは、西は黒海にのぞむボスポラス(カラデニス)海峡から東は太平洋のあいだ、そして北はシベリアから南はジャワ島までの区域に横たわる広大だが形のはっきり決めにくい地域である。言い換えれば、アジアとはヨーロッパ人の知識ではとても理解できない地域のことである。これは本質的には押しつけられたアイデンティティであり、人種的にも文化的にも無意味な幻想的で観念的なこじつけであり、この巨大な地域の外にいる第三者が、地域内に見られる異質の要素の集まりを一体的なものと言いくるめることによって、その無限ともいえる多様性をなんとか理解した気になろうと適当に想像しただけの概念である。