アンリ・ミショー「海」(全) (小海永二 訳)

 わたしの知っているもの、わたしのもの、それは涯しない海だ。

 二十一歳、わたしは街の生活を逃げ出した。雇われて水夫になった。船の上には仕事があった。わたしは驚いた。それまでわたしは考えていたのだった、船の上では海を見るのだ、いつまでも海を見るのだ、と。

 船は艤装を解いていた。海の男たちの休暇が始まったのだ。

 わたしは背を向けて出発した。一言も言わなかった。わたしは海をわたしの中に持っていた、わたしの廻りに永遠にひろがる海を。

 どんな海かって? それなんだが、何かがあって、言おうとしてもどうもはっきり言えないんだ。