井坂洋子「朝礼」(全)

雨に濡れると
アイロンの匂いがして
湯気のこもるジャンパースカートの
箱襞に捩れた
糸くずも生真面目に整列する


朝の校庭に
幾筋か
濃紺の川を流す要領で
生白い手足は引き
貧血の唇を閉じたまま


安田さん まだきてない
中橋さんも


体操が始まって
委員の号令に合わせ
生殖器をつぼめて爪先立つたび
くるぶしにソックスが皺寄ってくる
日番が日誌をかかえこむ胸のあたりから
曇天の日射しに
ゆっくり坂をあがってくる
あの人たち


川が乱れ
わずかに上気した皮膚を
濃紺に鎮めて
暗い廊下を歩いていく
と窓際で迎える柔らかなもの
頬が今もざわめいて
感情がささ波立っている
訳は聞かない
遠くからやってきたのだ