王之渙(わうしくゎん)「涼州詞(りゃうしうし)」(全) (齋藤晌)

黄河遠く上る 白雲の間。
一片の孤城 萬仞の山。
羌笛何ぞ須ひん 楊柳を怨むを。
春光度らず 玉門關。


くゎうがとほくのぼる はくうんのあひだ。
いっぺんのこじゃう ばんじんのやま。
きゃうてきなんぞもちひん やうりうをうらむを。
しゅんくゎうわたらず ぎょくもんくゎん。


黄河遠上白雲間
一片孤城萬仞山
羌笛何須怨楊柳
春光不度玉門關


 黄河が長くつづいている。その上流を見わたすと、遠く遠く白い雲のあいだに届いているように見える。天にそびえる恐ろしい高い山なみと、たった一つぽつんと城塞の町があるばかり。聞こえてくる笛の音(ね)。それは折楊柳(せつようりゅう)という別れの曲だ。だが、ここでは楊柳を折って別れを怨むことはない。そんなことは無駄さ。柳(やなぎ)なんか一本も生えていないよ。春の光は玉門關(ぎょくもんかん)を越えて、この荒れ果てた胡地(こち)にさしてくることはないのだよ。