王維「送別」(全) (齋藤晌)

馬より下りて君に酒を飮ましむ。
君に問ふ、何の之く所ぞ。
君は言ふ、意を得ず、
南山の陲に歸臥せん、と。
但 去れ、復問ふこと莫けん。
白雲盡くる時なし。


うまよりおりてきみにさけをのましむ。
きみにとふ、なんのゆくところぞ。
きみはいふ、いをえず、
なんざんのほとりにきぐゎせん、と。
ただ され、またとふことなけん。
はくうんつくるときなし。


下馬飮君酒
問君何所之
君言不得意
歸臥南山陲
但去莫復問
白雲無盡時


 わが友が都を棄てて山に歸るというので、ここまで馬に乗って送ってきた。ここで馬をおりて路傍で別れの宴(えん)を張り、君に一杯飮んでもらうことにした。さて「君はなぜ歸ってゆくのか」と聞いた。すると、友はいった。「どうも世のなかが思うようにならないから、南山のかたすみへ歸って寝ころんでいようと思う」「そうか、そんなら行きたまえ、もう何もたずねまい。いいじゃないか。君が行くさきの南山には白い雲が湧き起こって盡(つ)きるときがないんだ」