楊萬里「釣雪舟中、霜夜、月を望む(てうせっしうちゅう、さうや、つきをのぞむ;釣雪舟中霜夜望月)」(抄) (今關天彭、辛島驍)

詩人 月を愛し 中秋を愛するか
人有って儂に問へば 儂 頭を掉る
一年の月色 只だ 臘裏
雪汁 揩磨し 霜水 洗ふ
八荒萬里 一青の天
碧潭 浮出す 白玉の盤
更に 梅花に約して 渠が伴と作らしむ
中秋は 是くのごとくならず 此の段を欠く


しじん つきをあいし ちゅうしうをあいするか
ひとあってわれにとへば われ かうべをふる
いちねんのげっしょく ただ らふり
せつじふ かいまし さうすゐ あらふ
はっくゎうばんり いっせいのてん
へきたん ふしゅつす はくぎょくのばん
さらに ばいくゎにやくして かれがはんとならしむ
ちゅうしうは かくのごとくならず このだんをかく


詩人愛月愛中秋
有人問儂儂掉頭
一年月色只臘裏
雪汁揩磨霜水洗
八荒萬里一青天
碧潭浮出白玉盤
更約梅花作渠伴
中秋不是欠此段


 「あなたは詩人だが、月がすきで、中秋のころがおすきなんでしょう」と、問(たず)ねる者があったら、わたしは頭をふって、「いや、そうではない」と答えるだろう。「なぜですって? 一年のうちでは、月の色のよいのは、十二月の月が一番すきです。まるで雪の汁で拭き、霜の水で洗ったように、澄みきっています。目のとどくかぎり、夜空は、青くすみ、まるで深いみどりの渕(ふち)のなかに、白玉のお盆でも浮かべたようです。まして、梅の花と、約束でもしているように、梅の花が、そのつれとなっています。――中秋の月には、この梅の花というおしょうばんがないですから」
 月と梅のとりあわせは、何といってもすばらしい。