無名氏「企喩歌(きゆか)」(『古詩源』より)(抄) (星川清孝)

男兒憐む可きの蟲、
門を出づれば死の憂を懷く。
尸は狹谷の中に喪ひて、
白骨人の收むる無し。


だんじあはれむべきのちゅう、
もんをいづればしのうれへをいだく。
しかばねはけふこくのうちにうしなひて、
はくこつひとのをさむるなし。


男兒可憐蟲
出門懷死憂
尸喪狹谷中
白骨無人


男子は可哀そうな生き物である。志を立てて門を出れば、心中にすでに死の心配を抱いている。そして遂には死体は狭い谷の中に打ち棄てられて、白骨は誰も取り収めてくれる人がいないという最期をとげるのであろう。