韓愈「秋の懷の詩十一首(あきのおもひのしじふいっしゅ;秋懷詩十一首)」(抄) (原田憲雄)

今晨 起つことを成さず
端坐して日景を盡す
蟲鳴いて 室 幽幽
月吐いて 牕 冏冏
喪ひし懷は方に迷ふが若く
浮しき念は梗を含むより劇し
塵埃 伺候するに慵く
文字 浪に馳騁す
尚ほ須く其の頑を勉むべし
王事には朝請あり


こんしん たつことをなさず
たんざしてじっけいをつくす
むしないて しつ いういう
つきはいて まど けいけい
うしなひしおもひははうにまよふがごとく
あだしきおもひはとげをふくむよりはげし
ぢんあい しこうするにものうく
もんじ みだりにちていす
なほすべからくそのぐゎんをつとむべし
わうじにはてうせいあり


今晨不成起
端坐盡日景
蟲鳴室幽幽
月吐牕冏冏
喪懷若迷方
浮念劇含梗
塵埃慵伺候
文字浪馳騁
尚須勉其頑
王事有朝請


このあした起きいでず
端居(ゐすま)ひて日かげつくしつ
虫すだき部屋ひそひそと
月いでて窓きらきらし
おもひ失せ たどきもしらず
あだしきねがひ棘さすごとし
塵の世に人訪(と)ふは憂(う)く
いたづらに文字馳(は)するのみ
おろかなるおのれ守らむ
おほやけのつとめのみして