魚玄機「賣殘の牡丹(ばいざんのぼたん;賣殘牡丹)」(全) (辛島驍)

風に臨んで 興歎す 落花の頻なるを、
芳意 潛に消ゆ 又一春。
應に 價高きが爲に 人 問はざるなるべし、
却て 香甚だしきに縁って 蝶 親しみ難し。
紅英 只稱ふ 宮裏に生まるるに、
翠葉 那んぞ堪えん 路塵に染まるに。
根を 上林苑に移すに至るに及んで、
王孫 方に恨まん 買ふに因なきを。


かぜにのぞんで きょうたんす らくくゎのしきりなるを、
はうい ひそかにきゆ またいっしゅん。
まさに あたひたかきがために ひと とはざるなるべし、
かへって かうはなはだしきによって てふ したしみがたし。
こうえい ただかなふ きゅうりにうまるるに、
すゐえふ なんぞたえん ろぢんにそまるに。
ねを じゃうりんゑんにうつすにいたるにおよんで、
わうそん まさにうらまん かふによしなきを。


臨風興歎落花頻
芳意潛消又一春
應爲價高人不問
却縁香甚蝶難親
紅英只稱生宮裏
翠葉那堪染路塵
及至移根上林苑
王孫方恨買無因


風に落つる牡丹の花の 哀れさよ
かくてまた この春も 暮れゆく
値の高きゆゑに 買ふ人もなく
香り高きゆゑに 蝶も近よらず
紅き花びらは 九重の奥にこそ
緑の葉は 世の塵をいとふらむも
上林に 移し植ゑられなば
買はむすべなきを 恨まんものを(那珂秀穂氏譯)