フローベール『感情教育』 (生島遼一 訳)

 そして二人は自分たちの一生のあらましをふりかえってみた。
 二人とも失敗だった。恋愛を夢みた男も、政権を夢みた男も。どういうわけだろう?
 「たぶん、生(き)一本にやらなかったからだ」フレデリックはいった。
 「きみの場合はそうかもしれん。しかしぼくは、その反対で、あまり正直一本にやりすぎて失敗したんだ。そのほうが大切な、たくさんの第二儀的なことを無視してやったからな。ぼくは理屈が多すぎ、きみは感情が多すぎたのだ」