モーム『人間の絆』 (中野好夫 訳)

「どうも君は、自分の不幸について、少し過敏すぎるのじゃないかな。そのことで、神様に感謝する、というような気が、起ったことはないかね?」
(中略)
「なんというか、反抗的に、それを考えている限りはね、それは、ただ屈辱を感じるばかりだ。だがな、もしそれをお前に与えられた十字架、しかもお前の肩に、それを背負い切るだけの強さがあるために、与えられた十字架、いわば神様の恵みの兆(しるし)だという風に、考えればだな、それは不幸の原因どころか、むしろ幸福の源になるはずだ。」