陸游「夜、兵書を讀む(よる、へいしょをよむ;夜讀兵書)」(抄) (前野直彬)

陂澤 飢鴻號び
歳月 貧儒を欺る
歎息す 鏡中の面
安んぞ長へに膚腴なるを得ん


ひたく きこうさけび
さいげつ ひんじゅをあなどる
たんそくす きゃうちゅうのおもて
いづくんぞとこしへにふゆなるをえん


陂澤號飢鴻
歳月欺貧儒
歎息鏡中面
安得長膚腴


沼地のあたりでは、飢えた雁(がん)が鳴いている。歳月は貧乏書生の私をばかにするかのように、むなしく過ぎ去るばかり。鏡にうつるわが顔をながめながら、私は溜息をつく。――人間、いつまでもこんなにつやつやした肌をしていられるものか。