ジェイムズ・ジョイス『若い芸術家の肖像』(丸谷才一 訳)

今、ぼくの少年時代はどこへ行ってしまったろう? 自分の運命に躊躇し、自分の傷の恥ずかしさに思い悩み、汚れた欺瞞の館(やかた)にあって、色褪せた屍衣とさわればたちまちくずれる花冠を身につけ、女王のごとく館に君臨していた魂はどこへ行ったろう? それともこう言うべきか、ぼくは今どこにいるのかと。