グンナル・エーケレーフ

     「十全感」(抄)(土岐恒二 訳)


きみのまわりで強烈な愛と死をくりひろげる全自然界につ
 いて。

     「宋」(抄)(土岐恒二 訳)


ひとつの窓、花をつけた一本の枝
それだけで十全に満ち足りている
大地なくて花はなく
空間なくて大地はなく
花なくて空間はない

     「地下納骨堂の絵」(抄)(圓子修平 訳)


緑に覆われた春の丘のなかで ゆっくりといっしょに腐敗
 していこう
時間のそとで むすばれて 腐敗していこう
ゆっくりといっしょに腐敗していこう……《

     「魂ノ不在」(抄)(圓子修平 訳)


・虚無から 虚無を通って 虚無へ
 命題 反命題 結論 神秘ナ呪文 命題
 (ミシンの音のようだ)


・きみはまちがえている、きみは道に迷っている
 そんなにいそがないで
 すこしはためらいたまえ
 待ちたまえ


・無意味 非現実的
            無意味 ぼくは
 ここで歌っているすわっている
 天から雲から
 ぼくは自分のためにはもうなにも望まない
 ぼくは遠く遠く離れていきたい
 ぼくは遠く離れてきた(夕の反響のあいだを)
 ぼくはここにいる
 命題 反命題 呪文
 きみもぼくも


・ああ 遠く遠く離れたところ
 そこでは あかるい空のなかに
 ひとつの梢の上に 一片の雲が
 幸福な無意識状態で 漂っている!
 ああ ぼくの内面の奥深く
 黒い真珠の眼の表面に
 幸福な判意識状態で 映っている
 一片の雲の像!
 それは在るものではない
 それはなにか別のものだ
 それは在るもののなかにある
 しかし在るものではない
 それはなにか別なものなのだ
 ああ 遠く遠く離れたところ
 そこに遠く離れて在るもののなかには
 なにか身近なものがある!
 ああ ぼくの内面の奥深く
 身近に在るもののなかには
 なにか遠く離れたものがある
 ここから遠く離れて在るもののなかには
 なにか遠く離れて身近なものがある
 あれかこれかのなかにある
 あれでもなくこれでもないなにものかが
 雲でもなく像でもない
 像でもなく像でもない
 雲でもなく雲でもない
 でもでもないない
 そうではなくてなにか別なものが!
 そこに在る
 唯一のものは なにか別なものだ!
 そこに在るものの なかに在る
 唯一のものは
 なにか別なものだ!
 そこに在るものの なかに在る
 唯一のものは
 ここに在る このもののなかでは
 別のなにものかであるものだ!
 (魂の子守歌
 ああ なにか別なものの歌)


 ああ
 意味ガナイ
 意味ガナイノデハナイト感ジツツ
 別ナ感ジヲイダキツツ
 果シナク
 三タビ 四タビ
 幾度トナク
 声
 アルイハ アブラカダブラ


 神秘ナ呪文
 命題 反命題 結論 またしても 命題
            無意味
 非現実的 無意味


 そして 蜘蛛が夜のしじまに網を張り
 蟋蟀(こおろぎ)が翅をすりあわせる


               秋に