オクタビオ・パス

     「廃墟のなかの賛歌」(抄)(桑名一博 訳)


・ドコデ掘リ起スノダ 言葉ヲ


・ブツカリ合ウコノ死ノ水ノ中ニ スベテハ流レコマネバナ
  ラヌノカ?


・人ハいめーじノ木
 言葉ハ花デアリ果実デアリ行為デアル

     「白」(抄)(鼓直 訳)


・          言語は
         いわば贖罪である
                    宥和である
         語らざる者への
                   幽閉され
         日々
            虐殺される
         無数の死者への
                   喋るだけで
         他人たちが働くのを見ているのは
         骨を磨くことである
                     透明になるまで
         ぺらぺらになるまで
                     沈黙を
         研ぎすますことである
                      やがて水に返る
         白波


・ぼくを視る ぼくが視る  ぼくはぼく自身が見るものの  
  もの             創造物である


・横たわった女 世界に似せて造られたもの
          世界は君のイメージの束


・        ぼくは考えない 見る 
                     ――見えるもので
                      はない
         反映を 思念を見るのだ


・        ぼくは考えない 見る
                      ――考えるもので
                       はない


・きみはきみの影からきみの名前へと落下する 触れてはな
  らぬ地平線


・きみはきみの名前からきみの肉体へと落下する 視線の彼
  


・きみの肉体は 見られ 触れられ 時間は 世界は肉体だ
 消えた瞬間のさまざまな肉体だ 想像の肉体は肉体のない
  思考だ


・        眺められたものの非現実性が  
         視線に現実性を与える


・        世界が実在的ならば
                     ことばは非実在
         ことばが実在的ならば
                      世界は
         亀裂 閃光 渦なのだ
         いや
         消えてはまた現れるものだ 
                         そうだ
         もろもろの名前の木だ            
                      実在 非実在
         これらはことばである
                      空気 音 空無
         非実在的な
                 ことばが
         沈黙に実在性を与える
                       沈黙は
         言語の組織である
                    沈黙


・        精神は
         肉体の創造したものである
         肉体は
         世界の創造したものである
         世界は
         精神の創造したものである
         ノー          イエス
            眺められているものの非実在
         透明が残されるもののすべてだ

    ※太字は出典では傍点