セーサル・バジェッホ(飯吉光夫 訳)

     「九匹の怪物」(抄)


そしてなやむこと それはとても苦しい……祈ってはみて
 も
そして 痛みの
結果 生まれて来る者たちがある
育つ者 死ぬ者
生まれながらに死なぬ者
生まれぬさきに死ぬ者
生まれも死にもせぬ者(それがほとんどだ)がある
そしてなやみの
結果 ぼくは哀しい
頭の先まで 踝(くるぶし)の先までもひたすら哀しい

   「高見と髪」(抄)


僕 ただたった生まれてきただけの者!
僕 ただたった生まれてきただけの者!

   「アガペー」(抄)


今日だれ一人やって来て たずねてくれはしなかった――
今宵 ぼくのことについてなにか きいてくれるものはい
 なかった


こんなに華やかな燈りの行列のなかで
ぼくは一輪の墓地の花すら目にしなかった
許したまえ 主よ――なんとぼくはまだ 死んではなかっ
 たことか


今宵 みんなが通りすぎて行く
ぼくのことについてはなにも たずねもせずききもせず


そして ぼくは知らない かれらが忘れているそのものを
またぼくの手のなかに まちがって まるでほかのだれか
 のもののようにおき忘れられているそのものを

   「毎日ぼくは」(抄)


子どもたちは 成長しようとする 幸福にみちあふれて
           おお 明るい朝
ぼくらの両親の悲しみが ぼくらをおきざりにすることができず
この世での かれらの愛の夢から逃れ去ることができずにいるうちに、――
あたかも 愛にみちみちた神のように
ぼくらの両親は 自分たちを創造主と考え
あたたかい傷つけでぼくらを愛した

   「ぼくの忍耐は木だ」(抄)


そして ぼくの忍耐はぼろぼろにむしばまれて
やおらこうぼくは口に出す――いつやって来る
のだろう 墓へと開かれた無言の日曜日は
いつやって来て このぼろだらけの
土曜日 この重荷をとりのけてくれる
のだろう いやいやながら
ぼくらをまぐあわせる快楽と
ぼくらを引きはなす快楽の
この恐しい生地は