2008-12-29から1日間の記事一覧

森鷗外「建築師」

森。僕だつて平生勉強して、自分丈(だけ)の家は新築してゐます。塔も立ててある。その塔に足場も掛けてある。併(しか)し自分でそれへ登らうとは思はない。塔の尖(さき)へのあこがれはあつても、自分で登らうといふ決心はない。

夏目漱石「京に着ける夕」

子規と来て、ぜんざいと京都を同じものと思つたのはもう十五六年の昔になる。夏の夜の月丸きに乗じて、清水の堂を徘徊して、明かならぬ夜の色をゆかしきものゝ様に、遠く眼を微茫(びぼう)の底に放つて、幾点の紅燈に夢の如く柔かなる空想を縦(ほしい)まゝに…