2009-01-06から1日間の記事一覧

森鷗外「靜(しづか)」

安達。侍の意氣地(いきぢ)では、切死(きりじに)をするも好(い)い。腹を切つて死ぬるも好い。併(しか)し命を惜みさへしなければ、死ななくても好いのです。それも再び世に出たい、身を立てたいと思ふのを目當(めあて)にしてながらへてゐるのが好いと云ふので…

夏目漱石「病院の春」

此看護婦は修善寺以来余が病院を出る迄半年の間始終余の傍に附き切りに附いてゐた女である。余は故(ことさ)らに彼の本名を呼んで町井石子嬢々々々と云つてゐた。時々は間違へて苗字と名前を顚倒して石井町子嬢とも呼んだ。すると看護婦は首を傾(かし)げなが…