2011-06-29から1日間の記事一覧

安岡章太郎『歴史への感情旅行』

だが逆に言えば、これだけ奈良や大阪に近いのに、どうしてこうも紀州は近畿とは切りはなされているのか、ということになるだろう。たしかに、熊野は隠国であって、陸のエア・ポケットとでもいうか、奈良あたりから真直(まっす)ぐ南へ下ってくると、途中か…

安岡章太郎『歴史への感情旅行』

本当の意味の傑作や成功作は、すべて大なり小なり偶然の加勢を得ているのであって、作家個人の力量だけでそんなに大きな仕事が出来るわけではない。

安岡章太郎『歴史への感情旅行』

たしかに、物を作る仕事でも「初心、忘るべからず」というところはあるだろう。しかし、接待やサーヴィスの仕事は単に「初心」を忘れないだけでなく、熟練すればするほど挙措動作に初(うい)ういしいものが要求される。おそらく、私たちは「もてなし」を受…

安岡章太郎『歴史への感情旅行』

要するに、私には物心ともに何の希望もなく、夜中に郊外電車のとおる音を聞きながら、ああおれもその気になれば、あの電車のそばまで這ってでも行けるし、レールに跳び込むこともできる、とそんなことばかりを考えていた。しかし、実際に自殺をはかってみる…