安岡章太郎『歴史への感情旅行』

 たしかに、物を作る仕事でも「初心、忘るべからず」というところはあるだろう。しかし、接待やサーヴィスの仕事は単に「初心」を忘れないだけでなく、熟練すればするほど挙措動作に初(うい)ういしいものが要求される。おそらく、私たちは「もてなし」を受けるとき、手慣れた手際の良さだけでは、何だか冷淡にあしらわれたような心持がするのかもしれない。むしろ、どこかに多少不慣れなところがあっても、一生懸命つくしてくれていることが感じられれば、その方が有り難い。