2011-07-31から1日間の記事一覧

三島由紀夫『春の雪 豊饒の海(一)』

「僕らは生きていて、死を豊富に所有している。葬いに、墓地に、そこのすがれた花束に、死者の記憶に、目のあたりにする近親者たちの死に、それから自分の死の予測に。 それならば死者たちも、生を豊富に多様に所有しているのかもしれない。死者の国から眺め…

三島由紀夫『春の雪 豊饒の海(一)』

一瞬の躊躇が、人のその後の生き方をすっかり変えてしまうことがあるものだ。その一瞬は多分白紙の鋭い折れ目のようになっていて、躊躇が人を永久に包み込んで、今までの紙の表は裏になり、二度と紙の表へ出られぬようになってしまうのにちがいない。