三島由紀夫『春の雪 豊饒の海(一)』

一瞬の躊躇が、人のその後の生き方をすっかり変えてしまうことがあるものだ。その一瞬は多分白紙の鋭い折れ目のようになっていて、躊躇が人を永久に包み込んで、今までの紙の表は裏になり、二度と紙の表へ出られぬようになってしまうのにちがいない。