2014-11-06から1日間の記事一覧

井上靖『天平の甍』

二十日の暁方、普照(ふしょう)は夢とも現実ともなく、業行(ぎょうこう)の叫びを耳にして眼覚めた。それは業行の叫びであるというなんの証しもなかったが、いささかの疑いもなく、普照には業行の叫びとして聞えた。波浪は高く船は相変らず木の葉のように揺れ…

源氏鶏太「流氷」

その夜、美奈は、店へ出て、客の相手をした。ぐいぐいと酒を飲んで、別人のように、陽気に騒いだりしていた。お秋さんも、この調子なら、美奈も、憑きものが落ちたように、案外、早く、立直るのではないか、と思っていた。客の切れ目が出来たとき、 「酔い過…