2014-12-22から1日間の記事一覧

高山樗牛『瀧口入道』

世に畏るべき敵に遇はざりし瀧口も、恋てふ魔神には引く弓もなきに呆れはてぬ。無念と思へば心愈々乱れ、心愈々乱るるに随(つ)れて、乱脈打てる胸の中に迷ひの雲は愈々拡がり、果は狂気の如くいらちて、時ならぬ鳴弦の響、剣撃の声に胸中の渾沌を清(すま)さ…

幸田露伴『五重塔』

上りつめたる第五層の戸を押明けて今しもぬつと十兵衛半身あらはせば、礫(こいし)を投ぐるが如き暴雨の眼も明けさせず面(おもて)を打ち、一ツ残りし耳までも扯断(ちぎ)らむばかりに猛風の呼吸(いき)さへさせず吹きかくるに、思はず一足退(しりぞ)きしが屈せ…