2015-01-27から1日間の記事一覧

久保田万太郎

竹馬やいろはにほへとちり〴〵に

新井洸

人間のいのちの奥のはづかしさ滲み来るかもよ君に対(むか)へば

三好達治「庭」

太陽はまだ暗い倉庫に遮ぎられて、霜の置いた庭は紫いろにひろびろと冷たい影の底にあつた。その朝私の拾つたものは凍死した一羽の鴉であつた。かたくなな翼を綞の形にたたむで、灰色の瞼をとぢてゐた。それを抛げてみると、枯れた芝生に落ちてあつけない音…

森田草平「煤煙」

日が落ちて、空模様の怪しく成つた頃である。東海道線の下り列車は、途中で故障を生じたので、一時間余りも後れて岐阜駅へ着いた。車掌が「ぎふ、ぎふ」と呼びながら、一つ宛車輛の戸を開けて行く。其後から、乗客は零れる様にプラツトフォームへ降りて、先…