三好達治「庭」

 太陽はまだ暗い倉庫に遮ぎられて、霜の置いた庭は紫いろにひろびろと冷たい影の底にあつた。その朝私の拾つたものは凍死した一羽の鴉であつた。かたくなな翼を綞の形にたたむで、灰色の瞼をとぢてゐた。それを抛げてみると、枯れた芝生に落ちてあつけない音をたてた。近づいて見るとしづかに血を流してゐた。
 晴れてゆく空のどこかから、また鴉の啼くのが聞えた。