2015-03-22から1日間の記事一覧

三橋鷹女

鞦韆(しゅうせん)は漕ぐべし愛は奪ふべし

寺山修司

マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや

長谷川伸「夜もすがら検校」

音もなく降りつづく雪の中に旅姿の盲人がただ一人、両手をあげて狂気のように叫んでいる。 街道とはいえ里はずれ、人家は遥かに遠く盲人は、むざんな雪の苛責にとじこめられて泣き叫ぶ声すらが冷たい雪に籠められて遥かな人里に届こうはずはなかった。 「り…

稲垣足穂「星を売る店」

日が山の端(は)に隠れると、港の街には清らかな夕べがやってきた。私は、ワイシャツを取り変え、先日買ったすみれ色のバウを結んで外へ出た。 青々と繁ったプラタナスがフィルムの両はしの孔のようにならんでいる山本通りに差しかかると、海の方から、夕凪時…