2015-03-29から1日間の記事一覧

野沢節子

冬の日や臥して見あぐる琴の丈

高安国世

なまなまと病院を出でし塵埃車街に平凡のトラックとなる

佐藤紅緑「あゝ玉杯に花うけて」

『ぢやお先に』 チビ公は荷を担いで家を出た、何となく戦場へでも出るやうな緊張した気持が五体に溢れた、彼は生れて始めて責任を感じた、今までは寒いにつけ暑いにつけ、商売を休みたいと思つた事もあつた、又伯父さんに叱られるから仕方なしに出て行つた事…

平林たい子「古戸棚」

明るい晩春の陽のさす空地では、真新しい網を間にして、工場主の娘の、双生児の女学生の、純白の洋服姿がちらちら動いていた。ラケットが、球をすくいあげるたびに、胸に結んだ水色のリボンがヒラヒラと動いた。信江はそれを、揚羽蝶の様に美しく思った。 二…