平林たい子「古戸棚」

 明るい晩春の陽のさす空地では、真新しい網を間にして、工場主の娘の、双生児の女学生の、純白の洋服姿がちらちら動いていた。ラケットが、球をすくいあげるたびに、胸に結んだ水色のリボンがヒラヒラと動いた。信江はそれを、揚羽蝶の様に美しく思った。
 二人は、互の、紙の様に血色の死んだ顔を見合わせると、面白くない表情に戻って、湿った麻裏でばたばたと工場の方へ歩いて行った。明るい外に慣れた目で見ると、蒸気がもうもうとこめた工場の中は、煙突の中のように細長く真っ黒だった。
 「ふう」
 と今度は信江が冷笑に似た嘆息をもらして馴れた蛹の香の前掛で、額の汗を拭いた。
 よしのは、見てはならないものを見る様に今一度だけ工場の入口で振返った。楕円形のラケットが、青い空でおどっていた。