2015-06-06から1日間の記事一覧

諸葛亮「出師表」

先帝臣(せんていしん)が謹愼(きんしん)なるを知る。故に崩(ほう)ずるに臨みて臣(しん)に寄するに大事(だいじ)を以てせり。命を受けて以來、夙夜(しゅくや)憂慮し、付託效(かう)あらず、以て先帝の明を傷(やぶ)らんことを恐る。故に五月濾(ろ)を渡り、深く不…

『大和物語』(第一五五段)

昔、大納言の娘いとうつくしうてもち給うたりけるを、帝に奉らむとてかしづき給ひけるを、殿に近う仕うまつりける内舎人(うどねり)にてありける人、いかでか見けむ、この娘を見てけり。顔かたちのいとうつくしげなるを見て、よろづの事おぼえず、心にかかり…

パヴェーゼ『丘の上の悪魔』(河島英昭 訳)

「愚かな女さ」ぼくは言った。 「いつも愚かだよ、恋をしている女は」と、ピエレットが言った。 男女の影を操る歌の言葉に、ぼくは耳を傾けた。《生きて生きて――取るのよ取るのよ――心すなおに》とそれは言っていた。たとえ不満で、煩わしくても、その歌の調…

パヴェーゼ『丘の上の悪魔』(河島英昭 訳)

「ぼくは自分を子供と思いこんでいる老人だった。いまではわかっている。ぼくはひとりの男、悪癖にまみれた男だ。弱い男、それでもひとりの男だ。あの叫び声がぼくの正体をあばいた。ぼくは自分に幻影を許せない」

パヴェーゼ『丘の上の悪魔』(河島英昭 訳)

「ひとはみな、自分で唱わなければならない」と、ピエレットが言った。「自分で、自分だけでしなければ、どうにもならないことがあるんだ」 するとポーリは笑いながら言った、「踊っている人間はそれで手がいっぱいだから、大目に見てやらなければ」 「踊っ…

パヴェーゼ『丘の上の悪魔』(河島英昭 訳)

しかしポーリは落着いていた。「ぼくはコントラストが、つまり対照が、好きです。ぼくたちが、肉体よりも強くかつ高い存在であると自分を感じるのは、対照のなかでだけです。対照がなければ、人生は陳腐なものになってしまう。ぼくは自分に幻想を求めている…

パヴェーゼ『美しい夏』(河島英昭 訳)

暗闇のなかでふたりは服を着た。そしてその暗闇のなかで、不意に、あのモデルは誰なのか、とジーニアはたずねた。 「ぼくが帰ってきたことを聞きつけて、やってきた、かわいそうな女だよ」 「きれいなひとなの?」とジーニアが言った。 「見なかったのかい?…