2015-06-11から1日間の記事一覧

パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

わたしは、すべては同じだ、いつも変らぬくり返しだ、と思った

パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

ヌートは麦打ち場のあたりに立ちどまったまま、顔をゆがめて顳顬(こめかみ)に拳(こぶし)を当てた。「この匂い、この匂い」と、彼はつぶやいた。

パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

「ほら見たまえ」と、彼は言った。「子供のころに聞いたただの一言、それもぼくの父のような年寄りで平凡な貧乏人から聞かされた言葉でも、それだけで人の目をあけることだってあるのさ……」

パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

「きみの店でお父さんとぼくらのした話を憶えているかい? もうそのころから、お父さんは言っていたよ、無智な連中はいつまでたっても無智のままだろうって。なぜなら、力をもっているのは、人々が何もわからないでいることに利益を感じているやつら、政府、…

パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

こうしたモーラのいっさいのこと、あのわたしたちの生活――そのうちの何が今も残っているのだろう? あの長い年月のあいだ、わたしには夕暮れの菩提樹の梢を渡る風だけでじゅうぶんだった。それだけでわたしは自分が別な人間になったように感じ、ほんとうのわ…