クロード・シモン『アカシア』(平岡篤頼 訳)

「が昨日書いたとおりです。あたしはただ……」――というのもそんなこと、彼女自身の母親との関係ですら、いまでは彼女は彼に頼っていて、自分はオルガスム的で生暖かい至福の大海に漂いつづけていたからで、彼のほうは寸のつまった、鮮明で、放ち書きの、命令とか指令とかを書く書体で、何頁にもわたって綿密に、老女を満足させ、安心させるような細々したことを書きつらねていて、たとえば家のなかの各部屋の位置と配置とか、召使の数とか、その性質、気候についての情報、日中と夜間の温度差、水の生分、その地方の衛生状態といったことを(そして子供が生まれると、母乳の質とか乳母――かすくなくとも子供に専属の下女を雇えるかどうかとか)、いわば階級上の上官あてにキャンプとか、奥地の駐屯地、ないしは宿舎とかの設営に関して報告するみたいに報告するのであって、