谷川俊太郎『愛について』「私の言葉2」

私のうそへ私は行き
私のうそから私は帰る
沈黙が私とうそとを距てる時
枕が固すぎて私は眠れぬ夜をすごす


花が私のうそを追いかけてくれる時
私のうそを私は撲(う)つ
愛が私のうそに背を向ける時
私は小さなpenisyを連れてうろうろする


私が黙って夜空を私の中にひろがらせ
その中に一匹の金魚を飼っていると
誰かがこんにちはと云ってそれを殺す


私のうそへ私は帰り
私のうそから私は出かける
生真面目にノオト一冊
目のふちに昨夜の涙を残したまま
横断歩道を堂々と渉(わた)る