2015-12-06 谷川俊太郎『愛について』「私の言葉1」 引用 ぼくは大声で呼んでいた 雲は綿菓子になってくれなかった 空は窓になってくれなかった ぼくはそれから稲叢(いなむら)のかげにかくれて ジュリエットを呼んだ ジュリエットは息をきらして駈けてきた ぼくはいつまでもかくれていた ぼくは息を殺して黙っていた―― そうして私はとらえられた 私の呼ばなかったものに 私はむち打たれ いれずみされ 背に幾本もの矢を立てられた 私はすべてのものを呼びつづけねばならなかった あえぎながら それらの偽りの名を