谷川俊太郎「kiss」

目をつぶると世界が遠ざかり
やさしさの重みだけがいつまでも私を確かめている……


沈黙は静かな夜となって
約束のように私たちをめぐる
それは今 距てるものではなく
むしろ私たちをとりかこむやさしい遠さだ
そのため私たちはふと ひとりのようになる……


私たちは探し合う
話すよりも見るよりも確かな仕方で
そして私たちは探しあてる
自らを見失った時に――


   *


私は何を確かめたかったのだろう
はるかに帰ってきたやさしさよ
言葉を失い 潔(きよ)められた沈黙の中で
おまえは今 ただ息づいているだけだ


おまえこそ 今 生そのものだ……
だがその言葉さえ罪せられる
やがてやさしさが世界を満たし
私がその中で生きるために倒れる時に