ベケット『ゴドーを待ちながら』(安堂信也 高橋康也 訳)

ヴラジーミル わたしは眠ってたんだろうか、他人が苦しんでいるあいだに? 今でも眠ってるんだろうか? あす、目がさめたとき、きょうのことをどう思うだろう? 友達のエストラゴンと、この場所で、日の落ちるまで、ゴドーを待ったって? ポッツォが、お供を連れて過ぎた、そして、わたしたちに話しかけた? そうかもしれん。しかし、その中に、どれだけの真実がある? (エストラゴンは、夢中で靴と戦うが、だめなので、再びうずくまる。ヴラジーミル、それを眺めて)墓にまたがっての難産。そして、穴の底では、夢みるように、墓掘人夫が鉗子(かんし)をふるう。人はゆっくり年を取る。あたりは、わたしたちの叫びでいっぱいだ。(聞く)だが、習慣は強力な弱音器だ。(エストラゴンを眺め)わたしだって、だれかほかの人が見て、言っている。あいつは眠っている、自分では眠ってることも知らない、と。(間)これ以上は続けられない。(間)わたしは何を言ってるんだ?