ベケット『ゴドーを待ちながら』(安堂信也 高橋康也 訳)

ポッツォ しかし、あれは啞(おし)だよ。
ヴラジーミル 啞?
ポッツォ そうとも。うめくこともできない。
ヴラジーミル 啞って! いつから?
ポッツォ (急に激怒して)いいかげんにやめてもらおう、時間のことをなんだかんだ言うのは。ばかげとる、全く。いつだ! いつだ! ある日でいけないのかね。ほかの日と同じようなある日、あいつは啞になった。わしは盲になった。そのうち、ある日、わしたちは聾(つんぼ)になるかもしれん。ある日、生まれた。ある日、死ぬだろう。同じある日、同じある時、それではいかんのかね?(やや重々しく)女たちは墓石にまたがってお産をする、ちょっとばかり日が輝く、そしてまた夜。それだけだ。(綱を引き)前進