赤松啓介『夜這いの民俗学』

 しかし、すべての男と女とが慣習どおりにメデタシ、メデタシになるわけではない。とくにいろいろの障害者の人たちにとっては、昔のムラも、生きるのが難しかったと思う。一般の民俗学者や研究者と違って、われわれは暗黒面にまで照射させる眼力、気力をもち、育てていかぬと、ほんとのことはわからない。
 障害者たちに肉親の人たちが性教育をして一方が妊娠したというハナシは多い。それをどのように考え、噂するかにもムラによっていろいろの型がある。問わず、語らずで知らぬ顔で通すムラ。殆ど宮参りなどもしないからムラの子としてみなされていないということである。しばらくすると、いつのまにかムラを立退く型もある。都市へ出たというのもあるし、他国へ出て乞食、巡礼しているという噂もある。そんな噂を聞くのも悲しいが、ムラの人のなかには、そうして知らぬ土地へ出て、旅で死ぬ方が、かえって幸福だろうという人もある。