ねじめ正一『言葉の力・詩の力』(NHK人間講座 2001 4月〜5月期

つまり、吉岡さんはコトバだけでひとつの世界をつくり上げてしまったわけです。この詩はコトバだけで出来ています。「詩なんだもの、そんなの当たり前でしょ」というのは間違いです。たいていの詩はコトバだけではなく、詩人の内面だの感情だの思想だのが入っています。入れまいとしても、どうしても混じり込んでしまうのです。もちろんそれは悪いことではありません。そういうものが入っていることで詩は人間の真実に近づいたり、世界の真実を見せてくれたりします。しかし、人間の真実に近づくこと、世界の真実を見せることだけが詩ではない。