夏目房之助『マンガはなぜ面白いのか その表現と文法』(NHK人間大学 1996 7月〜9月期)

 そして、何よりもドラえもんそのものの造形が、じつに安定した丸の集合によってできています。ドラえもんの絵から丸い線とそれ以外の線を抜き出して並べると、いかに彼が丸にこだわって描かれているかがわかります。ドラえもんがじつは耳のついた猫型ロボットだったという設定がありますが、三角形の耳がついたドラえもんをみると、耳がついただけで凡庸なキャラクターになってしまうようにみえます。もし彼が最初から耳のあるロボットとして登場していたら、低年齢層があれほど飽きずに支持したかどうか。私は案外飽きられたのではないかという気がしてなりません。
 もう一つ、ドラえもんの特徴は、目の位置が高いことです。ふつう、低年齢向けの可愛いキャラクターは、子供の目の位置がそうであるように、顔の下のほうにあります。目が高いところにあるのは大人を意味するのです。これは彼がのび太達と遊ぶ子供の仲間のようでありながら、じつは何でも可能にしてくれる理想の大人、安心できる保護者であることを暗示しているようにみえます。作家がそこまで意識して描いたのではないでしょうが、結果的にはそういう効果になっている。