D・スペンダー『ことばは男が支配する 言語と性差』(れいのるず=秋葉かつえ 訳)

 このため、言語は人間にとって一つのパラドックスになる。つまり、言語は創造的であり、同時に、抑制的な伝達手段である。言語は、一方において、私たちが自分の住む世界を「創造する」ことを可能にし、限りない自由を与えてくれる。こんなにも数多くの文化が存在し、その文化の数だけ「世界」が創造されたという事実は、この法外で多彩な言語の創造力の証である(中略)。しかし、もう一方では、私たちは、創造された言語に制約され、言語の定める境界に限定されてしまって、始めに創造した構造は「恣意的」で、近似値でしかないはずなのに、それに修正を加えることに抵抗し、不安を感じ、恐れているように思われる。言語のとなっているのはこれである。

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