薄井坦子『科学的看護論』

 ともあれ,一般論は抽象的で役に立たないという人が多いが,それらのほとんどは抽象的な一般論が悪いのではなく,その一般論がどのような手続きでとり出されたかを見抜く能力,および一般論を表象し具体化する能力が低い,すなわち一般論と現象とのあいだの抽象化-具体化という過程的構造を理解できないということである。これまでの教育ではそういう能力を高めようと教えていなかったということである。
(中略)
 実証主義者や経験主義者が本質的な段階での一般論の実践的な有用性を認め得ないもう一つの原因は,自分の経験した特殊なもののもつ一般性を抽象して,理論ができたと考えているからと思われる。それが,大きな意味での一般論からみた特殊性のもつ一般論だと考えないために,特殊性のなかに埋没してしまったり,自分の経験以外のことは自分の理論で解けないし自分でも解く能力がないと思っているので,他人の経験を尊重し,その解釈までもらってきたりするのである。科学としての一般論をもてば,経験では説明できないことを解決したり,他人の経験でも解けるのである。一般論を媒介にして対象を見るということを一度でもためしてみてその有用性を実際に知り得た人は,役に立たないといって捨てるようなことはしなくなるだろう。「現実から抽象してきた一般論だからといってそれで問題が解けるのだろうか?」というつぶやきは,実践を,本当の意味での実践をしたことのない人からのそれである。