鷲田清一「見えているのに、見ていないことを、見えるようにする」(『死なないでいる理由』所収)

 その後、前衛的といってよい華道家の生け花を間近に見る経験をしました。華道というのは、とにかく美しい花をきれいに生けて室内に飾るものだぐらいにしか考えていなかったわたしは、驚いてしまいました。
「生け花」と言いながら「殺し花」だからです。その花は、枝から切ったり、土から抜いてきたりしたものです。それを美しく見せるために、枝を折ったり、余分な葉をそぎ落としたり、極端な場合には花を一輪しか残さないこともあります。枝を切る、割る、葉をむしる、裂く、ちぎる。最後に、だめ押しのように剣山にブスッと刺す。人間だったら、拷問そのものです。栄養をやったり虫をとったりと大事に育てた花も、何日もかけて山奥から探してきた枝も、ポキンと折ったり、裂いたり、葉をむしったりする。そういうものが、じつは生け花です。