高森淳一「沈黙」(澤田瑞也、𠮷田圭吾 編『キーワードで学ぶカウンセリング――面接のツボ――』所収)

 沈黙が生じるのはそこにかかわる人間が二人以上いる場合に限られる。ひとりでいるときに黙っているのを普通はわざわざ沈黙と呼ばない。逆にいえば沈黙が生じるのは、他者からの期待、関係の中での役割といったものが前提にされているときである。そして、こうした関係性、治療状況に即していえばクライエントとカウンセラーの関係性の多様さに応じて、沈黙の種々の意味が生じるのである。本来話される言葉もこうした関係性やその言葉のおかれる文脈からしか正確な理解は得られないのだが、沈黙の意味――沈黙による語り――の理解にあっては、この関係性・文脈性による意味規定が前面に出る。