高森淳一「沈黙」(澤田瑞也、𠮷田圭吾 編『キーワードで学ぶカウンセリング――面接のツボ――』所収)

沈黙の伝える意味はそれを受けとる側との関係性に委ねられているために、不確実性を余儀なくされる。しかし、だからこそ沈黙のうちには、ありとあらゆる意味を潜ませることが可能である。なぜならば、関係性の求めている意味が沈黙の意味をも決定し、関係性の深さが沈黙の深さとなるからである。
 そもそも沈黙は言葉と言葉の間にあるのではない。それはM・メルロ=ポンティ(一九六九)も言うように、言葉という「図」を成立させるのに不可欠な「地」のようなものであってつねに言葉をとりまいている(滝浦静雄木田元訳『世界の散文』みすず書房、一九七九)。沈黙は語られる以前の言葉そのものであり、語られる言葉のうちに遍在する。
 ゆえにカウンセラーは語られた言葉のうちに沈黙せる言葉を聴き、沈黙が沈黙のうちに語る言葉を聴くように努めねばならない。