高良武久「森田正馬『対人恐怖の治し方』解説」

 対人恐怖症は内向的態度の人に起こりやすいものである。内向的な人は、進んで自分の能力を発揮することよりも、いつも自己防衛の方に心を使っている。細心、要慎深いこと、真面目なことなどは長所ではあるが、自己中心的に自分の心身のことばかりに注意を向けているので、普通誰にもありふれたことを、自分ばかり特別な病的なこと、あるいは自己保存上非常に不利なことのように感じて、神経質症状を起こしやすいのである。
 たとえば人と対話するにしても、話の内容に気を向けずに、自分の顔面の感じに注意を向けているので、すこしでもほてった感じがすると、もう真赤になったと思い込み、それが恥ずかしいので、そのため本当に赤くもなるという調子になる。そうして赤面恐怖に取りつかれて、その予期恐怖のため、人に逢うのが苦しくなる。
 あまりに内向的になれば生活が委縮してしまう。キャッチ・ボールをやるときボールを見ておれば、手は一々意識しなくても、おのずからその方に向くのであるが、自分の手を見ておれば、ボールを取り外してしまうようなことになる。人に対する時、自分の気持ち、顔の感じ、自分の態度等に気を向けていると、一層圧迫を感じ、人の話も上の空に聞いて面白くもなく、相手も気乗りがしないという調子になる。
 だから対人恐怖に限らず、神経質症状を治すには一つ一つの症状を治そうとせず、生活全体を積極的に推進さして、毎日することが多くて、忙しくて一日が短い、というような生活をするようにするのがよい。生活の外向化はどしどし仕事をするに限るのである。気のついたことは直ちに手を下してやる、という生活態度が身につけば、すなわち自己に即せず、外界の事物に即してゆく生活が実現すれば、神経質症状はおのずから消散するのである。