高良武久「森田正馬『対人恐怖の治し方』解説」

 対人恐怖の人は卑屈な気分で自己中心的に物事を解釈しやすいものである。電車に乗っても、あるいは通りを歩いていても、周囲の人々が自分を見ている、しかも軽蔑の眼で見ていると感ずるものがあり、人が笑っても自分を馬鹿にしているとか、眼をちょっとしかめても自分を不快に思っているのであるとか、人が話をしていると自分の悪口でもいっているのではないかと種々に気を回す人が多い。自分に関係のないことを関係があるように、被害的に考えるので、こういうのを関係念慮というのである。内向的自己中心的態度の現われである。対人恐怖の人は、自分が事実をあるがままに見ないで、卑屈な気分で関係念慮を現わしていることを案外自覚しない人があって、苦しい独り相撲をとっているのである。このことをよく自覚することが大切である。