ナボコフ『断頭台への招待』(富士川義之 訳)

「すべてが適当なところへ納まるようにぼくを欺いたのだ、すべてが。これこそこの生の行き止まりなのだ。そしてぼくは、その範囲内で救いを求めるべきではなかったのだ。救いを求めたなんて奇妙なことだ。現実には一度も手にしたことのないものを、夢のなかで最近失くしたからという理由で嘆いたり、あるいはそれをふたたび見つけるという夢を明日こそ見るのではないかと期待している人間そっくりではないか。だからこそ数学というものが創造されたのだ。数学には致命的な欠陥がある。ぼくはそれを発見したのだ。ぼくは生の小さな裂け目を発見したのだ。かつては何か他のもの、紛れもなく生気にあふれ、重要で広大なものと結合していたが、いまはぷっつりと切れている、生の小さな裂け目を――明晰な意味を十分に注ぎ込むためには、ぼくの形容辞はすこぶる杜撰なものに違いあるまい……ある種のことは口に出さぬままそっとしておくのが一番いいのだ、さもなければ、ぼくはまた頭が混乱してしまうことだろう」