パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

「あなたは」と、わたしにむかって言った。「この村で土地を全然もたない生活がどんなものだか、おわかりにならないでしょう。あなたのご家族の亡骸はどちらですか?」
 わたしにはそれがわからないのだ、とわたしは答えた。一瞬、彼は黙り、考えこみ、あきれた表情で頭をふった。
「わかります」と、彼は静かに言った。「人生とはそういうものです」
 彼の場合、どうしようもないことだが、村の墓地にまだ記憶もなまなましい故人の墓があった。十年も前のことなのだが、彼にはいまだに昨日のことのように思われるのだ。痛ましい思いをせずに弔らうことのできる死者が一人としているはずはない。あきらめ、そして安らかな気もちで思い出すことのできる死者は一人としていない。「わたしはずいぶんと、いろいろなばかげた間違いをして来ました」と、彼は言った。「この人生では、だれもが間違いを犯すものです。それに、愚痴が年寄りの持病でしてね。それにしても、たった一つ、わたしの心を安らかにさせてくれないのは、あの子のことなのです……」
 わたしたちは竹やぶになった道の曲り角に来ていた。彼は立ちどまり、口ごもった。「どんなふうに死んだか、ご存じですか?」